「マイケル・ポーターの競争戦略」ジョアン・マグレッタ著(早川書房)

「競争」と「戦略」

経営戦略の本には必ず紹介されている有名なフレームワークの1つに「5つの競争要因(ファイブフォース)」というものがあります。既存の競合企業同士の競争、買い手の交渉力、売り手の交渉力、代替品の脅威そして新規参入者の脅威が業界の構造を決定するとされています。また、「バリューチェーン(価値連鎖)」というフレームワークについても多くの経営戦略の本に紹介されています。しかし、経営戦略の教科書には、それらのフレームワークが実際どのような効果を生み出すのかという点については、深く説明されていないため、何となくそのようなフレームワークがあるんだなという理解しかしていませんでした。もっと深く知りたいと思っても、提唱者のマイケル・ポーターによって書かれた名著「競争の戦略」や「競争優位の戦略」はいずれも事典なみに分厚いため、読むことに尻込みしていました。そのような中、本書を見つけたのです。作者は、次のように述べています。

古典のやっかいなところは、マーク・トウェインの言葉を借りれば、「誰もが読んでおけばよかったと思うが、誰も読みたいとは思わない」という点だ(P.14)。

マイケル・ポーターの「競争の戦略」と「競争優位の戦略」は少し尻込みしていましたが、本書は一気に読む進めることができました。本書は、第一部「競争とは何か?」と第二部「戦略とは何か?」に分けられています。第一部では、「競争があるからこそ戦略が必要になる」ということで、「競争」というものを第1章「競争-正しい考え方」、第2章「5つの競争要因-利益をめぐる競争」、第3章「競争優位-バリューチェーンと損益計算書」の3つの章を通じて解説されており、それを踏まえて第二部の戦略について、第4章「価値創造-戦略の核」、第5章「トレードオフ-戦略のかすがい」、第6章「適合性-戦略の増幅装置」、第7章「継続性-戦略の実現要因」という4つの章を通じて解説されています。

競争優位

競争優位という言葉はとてもよく使われています。本書では、競争優位について次のように述べています。

ポーターのいう競争優位は、ライバル企業を下すことではなく、卓越した価値を生み出すことと関わるものだ。さらにいえば、この言葉には具体的で明確な意味がある。真の競争優位をもつ企業は競合他社に比べて低いコストで事業を運営しているか、高い価格を課しているか、その両方だ。他社をしのぐ業績をあげる方法は、これしかない(P.92)。

ポーターのいう競争優位とは、競合企業を蹴倒し自社が業界において優位に立つことではなく、顧客のニーズを満たすことであり、そのために戦略が必要であるとされています。業界の中においてそれぞれの企業が唯一最高の戦略を求めようとすれば、そこに激しい競争が生じることになり、最終的には、顧客にとっての判断基準は価格だけになります。しかし、本書は以下のように述べます。

ポーターのいう戦略的競争とは、他社と異なる道筋を選ぶことをいう。企業は最高を目指して競争する代わりに、独自性を目指して競争することができるし、そうすべきである(P.48)。

バリューチェーン

製品を設計し、顧客に販売し、そしてサポートするまでの一連の活動の集合をバリューチェーンといいます。顧客のニーズを満たすためのこの一連の活動のひとつひとつは、その製品(サービス)に価値を加えるべき活動と考えられます。

バリューシステムのすべての参加者が、より大きい価値創造プロセスの中で自らの担う役割をしっかり理解しなくてはならない。最終的なエンドユーザーに製品・サービスを提供する参加者だけではなく、そこから一、二、段階離れた参加者も含めたすべてだ(P.122)。

それぞれの活動に携わる人たちが、自らの役割をしっかり理解するためには、企業の目指すべき方向性を組織全体でしっかり認識していることが必要となるのです。

優れた戦略には、「特徴ある価値提案」が必要だと述べられています。しかし、特徴ある価値提案が出来さえすれば、それが優れた戦略かというとそうではありません。短期的には競争優位に立てる可能性はありますが、持続可能な競争優位を生み出すためには、特別に調整されたバリューチェーンが必要となるのです。

企業が実行する活動の違いがもたらす相対的価格または相対的コストの違いだ。つまり、自ら選択した価値提案を実現できるように、バリューチェーンを特別に調整する必要があるということだ。特別に調整されたバリューチェーンがなくても効果的に実現できる価値提案は、持続可能な競争優位を生み出さない(P.134)

取っつきづらかったマイケル・ポーターですが、この本を通じて「競争の戦略」や「競争優位の戦略」に挑戦してみようと思っています。

古典とは、「誰もが呼んでおけばよかったと思うが、誰も読みたいとは思わない」ものだと、トウェインは皮肉ったという。本書の執筆を終えようとしているいま、私にもようやくこのジョークの真意がわかってきた。読みたいと思わないのは、古典が難解だからなのではない。私たちが怠惰で、自分に甘すぎるからなのだ(P.250)。

 

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