マインド・ワンダリング

「コルチゾール」というストレスホルモン

私たちの身体は、ストレスを受けたときに、それに対処するためにホルモンを分泌することで、ストレスに打ち勝つための戦闘態勢を整えます。そのときに分泌される代表的なホルモンの一つにコルチゾールというものがあります。コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一つで、肝臓で糖を作り出したり、脂肪を分解して代謝を促す作用をもたらします。すなわち、すぐに行動に移せる身体にするということです。そのことは、太古の昔、周囲に多くの天敵が潜んでいる日常の中で敵に襲われたときに、命をかけて闘うか、命からがら逃げるかという選択を速やかに行うための生まれつきもっている身体反応なのです。いわゆる「火事場の馬鹿力」の状態です。コルチゾールは、副腎皮質から分泌された後、体内を循環しながら任務を遂行(エネルギーの補充等)し、その任務を遂行した後は、脳にたどり着いて、脳に吸収されます。すなわち、「火事場の馬鹿力」の状態が終わり、平常心に戻ることになるのです。

「海馬」の萎縮

現代においては、太古の昔のように周囲にどう猛な肉食動物が隠れ潜んでいる状態ではありません。つまり、日々の生活において、命をかけて闘うか、命からがら逃げるかという選択を迫られることというのは、ほとんどないのです。しかし、私たちの身体の中では、ストレスに直面したときと、どう猛な肉食動物に襲われたときとを区別することなく反応します。それは、「それらに対処するためにすぐに行動に移せる身体にする」ということです。
ストレスが絶え間なく続く状態に陥った場合、身体はどうなるのか?「火事場の馬鹿力」が永続的に続くことを考えて見てください。当然、身体は悲鳴を上げることになることは想像できると思います。

ストレスに直面したときには、コルチゾールというホルモンが分泌され、体内を循環しながら任務を遂行(エネルギーの補充等)した後は、脳に吸収されるということは、すでに述べたところです。脳内においても「海馬」という領域は、コルチゾールと結合する受容体があるため、処理能力以上のコルチゾールが分泌された場合、「海馬」がオーバーヒートを起こします。実際、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような障害を患っている人たちには、「海馬」の萎縮が見られるようです。

マインド・ワンダリング

私たちの日常を考えてみると、満員電車での出勤でストレスを感じ、職場での仕事のノルマや人間関係でストレスを感じ、帰宅してからも会社からのメールや電話などでストレスを感じるなど、絶えることなくストレスに直面しているのです。そして、そのようなストレスに直面するたびに、私たちの身体は、一生懸命にそれに対処するようにコルチゾールを分泌しているのです。また、ストレスについては、実際に起こっていることについてのみに反応するのではなく、頭の中で想像を膨らませている状態についても反応するのです。頭の中で色々と想像を膨らませ、考えを巡らせている状態を「マインド・ワンダリング」といいます。
上司からの叱責を受けたとき、顧客からのクレームを受けたときなど、帰宅してからも頭の中で怒りや悔しさそして悲しさなどが頭の中を巡っているとき、それがまさしく「マインド・ワンダリング」の状態です。そのような状態のときでも身体はコルチゾールを分泌し、それに対処しようとします。また、この「マインド・ワンダリング」は現代人にとって必需品となっているスマートフォンがその危険性を加速させているという指摘が「キラーストレス 心と体をどう守るか (NHK出版新書)」という本に述べられています。

私たちはちょっとでも空き時間があると、スマートフォンを手に取り、メールやSNSをチェックしてしまう。そこで目にするテキスト情報は、私たちの思考を回転させる。ついいろいろなことを想像してしまい、心は過去や未来へとさまよい出してしまうのである。

取材で出会ったある精神科医は、スマートフォンが普及して以降、うつや不安の症状を訴える患者が急に増えたという実感を語った。「キラーストレス 心と体をどう守るか (NHK出版新書)」

この「マインド・ワンダリング」に対する言葉として「マインドフルネス」という言葉があります。そして、この「マインドフルネス」がストレスに有効であると言われています。この「マインドフルネス」については、また次回に。